2010年12月24日金曜日

正規・非正規の中間設けよ

【日本経済新聞 経済教室 2009年7月16日】

現在、雇用環境の急速な悪化が大きな問題になっている。「景気の現状は、厳しいながらも下げ止まっている」との見方がある一方、完全失業率は近いうちに過去最悪の5・5%を更新するとの予測も一部にある。新たな雇用の創出と質の向上に向けて、何が必要なのか。一見、労働者のためになりそうな最低賃金の大幅な引き上げや製造業への労働者派遣の禁止ではなく、二極化している雇用形態を多様化することこそが、実は効果的な施策である。

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わが国の現在の労働ルールでは、企業が労働者を雇う際の契約期間は、原則として3年までの短期か、期間の定めのないものかを選ぶことになっている。そして俗に終身雇用と呼ばれる定年までの長期雇用は、期間の定めのない雇用契約と解雇権濫用法理(労働契約法第16条)、整理解雇法理の組み合わせで実現されている。ただしこの定年までの長期雇用とは絶対的なものではない。整理解雇が行われる可能性があるし、会社自体が倒産してしまう可能性もあるからだ。

一方で長期雇用の場合には、職務内容・勤務地・残業の有無や程度・賃金といった労働条件決定の面では、使用者側が相当程度の自由度を持っていることが多い。このように、すべての面で安定した雇用契約というものは存在せず、労働者の視点からみると、雇用保障は強いが勤務地や職種などの働き方の自由度に乏しい正規雇用とその反対の非正規雇用の二類型に分かれているといえるだろう。これが労働者を二極化させている要因である。

ここで注意すべきなのは、すべての労働者が長期間にわたる雇用保障のみを最優先としているわけではないということだ。人によっては、子どもの教育や親の介護などの理由から勤務地の変更を受け入れられないかもしれない。働くことのできる時間帯に制限がある人やキャリア形成の観点から特定の職種へのこだわりを持つ人もいるだろう。だがこのように雇用保障以外の労働条件を重視すると、安定した仕事を探すのが難しくなってしまうのが現状である。

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そこでセーフティネットの充実を前提に、現在の二極化した契約を多様化させることを提案したい。ここでは図にあるような、雇用保障を正規雇用より比較的弱める代わりに労働条件決定に労働者が関与できる割合が大きい中間形態を労使が採用しやすくすることの効果を考えよう。

その前に、なぜ図の右上に相当する一見すると理想的に見える雇用形態の実現を目指さないのかという疑問に答えたい。それは、企業からの長期雇用保障があるときに、さらに労働条件の変更に労働者の個別合意が必要としてしまうと、結果的に労働条件が低いままで固定化されてしまうからだ。一度引き上げたら引き下げも難しく雇用契約を終了させることもできないならば、労働条件は長い間なかなか向上せず、定年に近くなってから帳尻を合わせることが選ばれるだろう。それを望まない労働者は多いはずだ。

では中間形態としてどんな契約を考えるべきか。労働需要を増やす観点で最も重要なのは、契約解除の要件を明確にすることだ。それによって例えば景気回復時や新しい地域に進出する際、安心して新規採用ができるようになる。

まず雇用期間は、原則3年までというルールを5年契約や10年契約も選択できるようにすることが必要だろう。また期間の定めのない契約であっても1年前に告知すれば解除可能な雇用関係なども考えられる。次に場所についても特定地域の事業所の閉鎖と共に雇用契約が解除されるなどの特約も許されるべきだろう。職務内容についても、あらかじめ定められた仕事がなくなったことを理由とする契約解除を可能にすることなどが考えられる。ここで重要なのは労使間で解雇について争いがあったときに、当事者同士が合意した契約に基づく判断を裁判所が行うことだ。予測可能性がなければ中間形態は機能しないのである。

この提案は、産業構造転換の加速や労働者の考え方の変化で長期雇用実現が難しくなったことを前提に、二択にすることで結果的に短期雇用を増やしてしまうのではなく、中期の仕事を増やすことでより安定的な雇用環境を実現するのが目的だ。中間形態が選びやすくなるからといって、労使双方が望む長期雇用が妨げられるわけではない。

むしろこれは結果的に長期雇用が実現されやすくなるための施策といえる。例えば5年契約を2回繰り返した上で、定年までの長期雇用を提示される労働者がいるかもしれないし、有能な労働者に対しては仮に当初の契約期間が5年であっても、1年目に長期雇用契約への切り替えが提示されるかもしれない。長期雇用は選択肢を二択に限定することによって実現するのではなく、あくまで当事者たちの合意によるステップアップを通じて実現することが大切だ。

こうした新たな雇用類型には、新規雇用が生まれやすくなる利点があったとしても、それらの新たな仕事は現在の長期雇用より質の面で劣るため容認できないという批判があるかもしれない。だが前述のとおり、すべての労働者が雇用保障のみを最優先課題にしているわけではないことを考えると、正規雇用こそがすべての人にとって最善の働き方とはいえないだろう。セーフティネットが整備され、企業間で労働者を引きつけるための競争が適切に行われているなら、労働条件が過度に悪化することも考えにくい。

そもそも雇用の安定の面から重要なのは、必ずしも特定の企業との間で長期雇用契約が結ばれているか否かではない。一つの企業のみで雇用の安定を図るのは難しくなっている。それだけに、途切れることなく職が見つかり収入が安定していて生活設計がたてやすいこと、またキャリア形成への投資が労使双方により十分に行われることこそが重要なのではないか。

確かに、このような中間形態が増えると、景気後退期には雇用契約が継続されずに打ち切られるケースが増え、失業者が増加する懸念があるだろう。しかし大事なのは、次の景気回復までの期間を短くし、新たな回復の初期に雇用が生まれやすい環境をつくることである。景気が少し上向いてきた時に、それが長期にわたる回復なのか、それとも一時的なのかが分からないことは多い。この時、契約解除要件が明確であれば、すでに雇用されている労働者の労働時間を増やすのではなく、新たに労働者を雇うことが選択されやすくなるのである。

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雇用の種類を増やすことは他の施策より労働者保護の効果が大きい。例えば最低賃金を大幅に引き上げても、その時給に見合う貢献ができない労働者は職を見つけるのが難しいだろう。製造業への労働者派遣を禁止しても、条件の良い雇用が増えることに直接的につながるわけではない。一方で契約の終了要件を明確にして雇用を増やせれば、実際に働くことを通じて技能が向上し、結果的に賃金の上昇やより条件がよい職への移行が実現しやすくなる。労働者の生活を向上させるには、仕事を通じた稼得能力の向上こそがとるべき道である。

労働問題は皆が当事者であり利害関係者であるため主張が対立しやすい。そこで求められるのは、自分だけでなく子どもや孫の世代の立場も考えながらルールづくりを進めるという視点だ。政治哲学者のジョン・ロールズは、自分の位置や立場を全く知らない「無知のベール」によって、対立する人々は合理的な利己心を発揮しすべての人への配慮がある正義の選択をすると主張した。総選挙を控え政策論議が活発化しているが、我々は真に労働者のためになる労働市場改革について冷静に検討しなくてはならない。

ここで紹介した考え方は総合研究開発機構(NIRA)が実施した研究プロジェクト「日本の雇用制度を考える」の成果として今年4月に公表したものに依拠している。短期の対策と長期的な労働ルールの再構築、そして制度の移行プロセスに関しより包括的な議論を深めるべきである。

2010年10月14日木曜日

反省してみる:その2

前回投稿したのは,2007年に日経の経済教室に掲載された記事です。このエントリは「反省してみる」と題しましたが,読み返したところ特に反省することもないように思い,それならば誰か納得できる批判をしてくれていないかとGoogleで検索することを思い立ちました。

とりあえずタイトルの「長時間労働 規制は弊害も」で調べると,早速「loisi r- spaceの日記」なるページが最初にヒットしました。
http://d.hatena.ne.jp/loisil-space/20071107/p1

感想:いろいろと批判されているようですね。でも解説するのも面倒だし,まあいいか。

2010年10月12日火曜日

長時間労働、規制は弊害も

【日本経済新聞 経済教室(2007年11月6日)制度をつくる「法と経済学」の視点(上)】


医学が裏付ける上限設定は妥当

近年、劣悪な労働環境に起因する心身の疾病や過労死・過労自殺の問題に注目が集まっている。パワーハラスメントに対し労働災害を引き起こす要因であると認定した十月十五日の東京地裁判決も、メディアで大きく報道された。製薬会社の男性社員が自殺したのは上司による暴言が理由であったとして労災認定が争われていた裁判である。

健康被害につながる長時間労働や過労死を防ぐのにどんな施策が有効なのか。本稿では法と経済学の手法を用い考えてみたい。これは当事者たちのインセンティブ(誘因)を重視するアプローチで、その際に重要なのは、施策の直接的効果だけでなく波及効果も考えることである。

まず労働時間を直接規制する場合の効果を考えよう。例えば週あたりの労働時間を五十時間までに制限するような法律は実効性を持つだろうか。業務の忙閑の差が大きいホワイトカラー労働者を想定すると、忙しい時期にこの上限を超える労働が必要になることもあるだろう。高い業績評価や昇進などを求める労働者は、上司から依頼された仕事量を規定時間内に終わらせることができなかった場合、記録に残さない形で仕事を続けるだろう。こうした当人同士の(暗黙の)合意や裏取引を取り締まることには費用がかかりすぎ、中途半端な時間規制は実効性を持たない。

ただし時間規制が全く役に立たないわけではない。医学的に裏付けのある数字を基に、たとえ上司と部下が合意していたとしても超えてはならない労働時間の上限を設定するのは意義がある。そして部下に健康被害が発生した際に、この強行規定に違反していた実態があれば、上司がその責任を負うとすれば良い。

割増賃金上げも長期的効果なく

ここで注意すべきは、過労死は長時間労働だけの問題ではなく、個人の性格や周囲との関係など複合要因で起こる点だ。例えば、一部の有能な労働者に仕事が集中することや、責任感が強かったり頼まれごとを断れなかったりする性格の労働者に周囲が仕事を押し付けることはよくある。そうした場合、労働時間に上限規制を課しても、労働者は自宅に持ち帰ってでも仕事をしてしまう。

次に残業に対する割増賃金率を引き上げることの効果を考えたい。ここで割増率を、既存の従業員に残業させるより新たに労働者を採用した方が企業にとって得になる程度に高い水準に設定したとしよう。このとき業務量が年間を通じて安定的な企業は、割増率が上がると、八人の労働者を十時間働かせるよりも十人の労働者を八時間働かせることを選ぶだろう。しかし、仕事量にはたいてい波があり、企業が一番忙しいときでも残業を命じる必要がないよう予備の人を抱えておくことは非現実的だ。よってこの施策で、残業は完全には無くならないが、残業時間の減少と労働者数の増加という短期的な効果は期待できる。

しかしこの効果は長続きしない。労働者の受ける待遇は、結局は市場の圧力で調整されてしまうからである。割増率が引き上げられると、企業は賃金総額があまり増えないようにするため基本給を実質的に切り下げる調整を行うだろう。基本給をすぐ引き下げるのは難しいとしても、物価上昇時に給与を引き上げないことによる実質的な切り下げは可能である。

このとき残業をしなければ以前と同じ水準の賃金を得られず、余暇より残業を望む労働者が増えるため、結果として平均的な残業時間は増えてしまう。与えられた仕事を法定労働時間内に終わらせることができる有能な労働者の実質的な賃金が下がるなどの副作用も考えられる。いずれにせよ割増賃金率による長時間労働の抑制は難しい。

時間規制や割増賃金率引き上げの効果があまり期待できないとすれば、どうすればよいか。ここで視点を変え、商業施設での火災により死傷者を出さないために何が必要かという別の問題を考えてみたい。そもそも火災を出さないことが重要だが、火災発生を前提とすると、まず避難出口が存在することは必須である。また出口への誘導路が分かりやすく、従業員が客を的確に誘導し、パニック時でも客が誘導路を認識できることなどが必要だろう。早期消火用のスプリンクラー設備なども役に立つ。

労働災害を防ぐ手法もこれと似ている。まず過重な労働に直面した労働者に出口が用意されている必要がある。外部労働市場が十分に整備されていれば、転職を考えたときに生活水準が極端に落ちる心配をせずに退職できるだろう。このとき年金が持ち運び可能であることや、労働者が失業保険の機能を良く知っていることも求められる。

一見、被害者である長時間労働者が退職を選択し、それに伴い生活水準が落ちるのは正義に反するようにも思える。しかしそうした考え方は波及効果を考えていない、いわば「事後の議論」だ。過重な労働環境に直面した労働者がそれほど負担なく転職できるようになると、そもそも上司が命令できる仕事の絶対量が減る。そして矛盾するようだが、転職が容易になることで労働条件が改善され、転職する必要がなくなるのである。

政府の役割は成功例の紹介

一方で、退職という合理的な判断ができなくなってしまった労働者の保護も考えるべきだ。それには過重労働が発生していることを当人と周囲が認知する必要があり、業務記録、産業医と連携した健康管理、匿名で受けられるカウンセリングサービスなどが有効だろう。

本来、管理職には業務分担の決定に際し、部下の肉体的・精神的負荷に常に配慮することが求められている。健康被害を出さないようにするには、管理職への動機付けが必要であろう。現在でも多くの企業で、健康被害を出した管理職は管理能力がないと見なされて降格や配置転換などの実質的な罰が事後的に与えられていると思われる。しかし被害を出さないために重要なのは事前にルールが良く認知されていることであり、管理職に対して罰則を明示的に周知しておく必要がある。

ただし中間管理職にすれば、上から与えられたノルマなどに追われている場合には、部下の健康状態を楽観視してしまうか、自分が業務を抱え込んでしまいかねない。直接の上司のみの動機づけだけは不十分であろう。

長時間労働や労働災害を防ぐには、労使の自発的な取り組みが重要だ。これまで見たように、法律や規制で現状を変えようとしても、当事者たちのインセンティブの観点から適切なものでなければ、結局は実効性のないものになってしまう。

こうしたときに有効な手段とは、労働基準法などに違反し被害を出した場合にはそれなりの罰則が企業に課されることのみを決めておき、実際の保護手法は労使の自発的な取り組みに任せることだ。このやり方の最大のメリットは、政策立案者の発想を超えた、世間に広く存在するアイデアが有効活用される点にある。そして政府の役割として求められるのは、自発的取り組みの成功例を紹介することだろう。

法と経済学は、問題が発生したことを前提に、それをどう裁くかという事後の視点ではなく、そもそも問題を発生させないための施策を考えるという事前の視点から物事を見るものだ。本稿で議論したように、労働者を保護するという目的に対し、一見有効に思える施策であっても実は当事者たちの行動の変化で効果が打ち消されてしまったり、副作用が大きすぎたりすることもあり得る。これは事前の視点から分析されて初めて分かる問題だ。

特定の問題に対し提示された、法と経済学的に正しい解決策が、人々の直観に反するものであるとき、そもそも提案者が抱いている目的が自分たちと違うのではないかと誤解されることも多い。提案する側の誠実な説明ももちろん必要だが、法と経済学に対する理解も望まれる。

2010年10月8日金曜日

問題23

大規模なマンションが分譲される際に,売主がすべての部屋を同時に売り出すのではなく,第1期・第2期・最終期などと分けて販売されることがよく見られます。これはなぜでしょうか。

売主が合理的であるなら,モデルルームを設置する期間が長くなることや新聞への折り込み広告を複数回出す必要があること等のデメリットを超えるメリットがあるからこのような販売手法を採用しているはずです。

なぜ売主はこのような販売方法を採用するのかについて「需要関数」という言葉を用いて説明しなさい。

2010年10月7日木曜日

問題22

私たちが家探しをする際には不動産屋さんに案内と仲介を依頼することが一般的です。例えば家を借りる際には,まずネットで調べてから不動産屋さんを訪問するか,または街の不動産屋さんに直接行って,間取り図・写真・家賃等の情報を多数見せてもらい,その中から候補となる物件を選択するといった手順を踏むことになります。そして実際に複数の部屋を見せてもらった上で入居する物件を選択します。その際に車で複数の物件を案内してもらう等のサービスを不動産屋さんから受けることになります。

家探しを手伝ってくれる不動産屋さんに対して,東京都では成約したときのみ家賃の1.05ヶ月を仲介手数料として支払うことが一般的だと思われます。しかしこのことに疑問を持ったことはないでしょうか。例えばネットで希望する物件を絞り込んだ上で一カ所だけ中を見せてもらい契約する場合と多くの物件を案内してもらう場合とでは不動産屋さんが負担する調査費用や案内にかかる経費が異なります。また例えば家賃が8万円の物件と16万円の物件では仲介手数料が倍になるわけですが,見せてもらう件数が同じならば経費はほぼ同じではないでしょうか。

このように考えると内覧する件数に関わらず1.05ヶ月分の仲介手数料が設定されていること,また様々なサービスを受けたとしても,その不動産屋さんを窓口として契約しない場合には費用がまったく発生しないことは理不尽に思えるのではないでしょうか。なぜ内覧した件数×単価+契約手続き費用といった報酬体系になっていないのでしょうか。この疑問に関連する以下の問いに答えなさい。


注,なお我が国では法律(宅地建物取引業法第四十六条第一項)と下のアドレスの告示により,不動産業者が賃貸物件を仲介する際に一方から得られる報酬の上限が賃料の一ヶ月分までとされています。以下の問題は,まずこのような法律が存在していないものとして,仲介業者が自由に仲介手数料を設定できる場合を想定して解答してみてください。その上で,法の経済分析に関心がある方は,なぜ法律が上限を定めているのか(また,なぜ上限だけを定めているのか),そして現在の規制の水準は適切か,さらにはそもそもこのような規制は必要か否かについても検討することをお勧めします。


(1) 仲介手数料が先述のように「内覧した件数×単価+契約手続き費用」となっていた場合にどのような問題が起こるでしょうか。仲介する不動産屋さんのインセンティブの観点から検討しなさい。

(2) なぜ仲介手数料が毎月の家賃の高低に関わりなく一律に1.05ヶ月分になっているのか,価格差別という用語を用いて説明しなさい。

問題の公開

これまで政策研究大学院大学(GRIPS)で開講している講義の定期試験問題のみを公開してきましたが,今後出題するつもりでいた問題も少しずつ掲載していきたいと思います。

このように修正したら問題がもっと面白くなるといったコメントは大歓迎です。また,万が一コメント欄に解答案を書いて頂いたりなんてことがあれば,お返事を差し上げます。期待しないで待っています(笑)

2010年10月6日水曜日

反省してみる:その1

前回投稿したのは,2006年に日経の経済教室に掲載された記事です。これは神戸大学法学部(後期)の入試にも使われましたし,おそらく多くの方に読んでもらえたのではないかと妄想しているわけですが,現時点で振り返ると,理解が足りない点などがあるので反省してみようと思います。

全体的には,経済教室への執筆が初めてだったので舞い上がっていたのか(笑),言いたいことを詰め込み過ぎの感があります。そして内容については,もし書き直せるなら以下の5点を是非訂正・修正したいです。

1,まずホワイトカラーエグゼンプションを「一定の条件を満たすホワイトカラー労働者に対して、現行の労働時間規制を免除する制度」と書いているのは誤解を招く表現でした。規制のどの面を緩和してどの面を変えないのかを説明した方が良かったと思います。

2,次に労働組合の団体交渉について言及した際に「一方的に条件が切り下げられるとは限らない」と書いてしまっていますが,低い組合組織率とフリーライドの問題の等に触れておくべきでした。

3,さらに新卒・中途採用の市場における企業間競争が労働条件の維持改善に役立つという主張に関しては,時代や技術革新による環境の変化についても述べておくと分かりやすかったでしょう。例えばインターネットの発達により昔よりも雇用条件比較が容易になり「相場」の形成と認知が改善したのではないかと指摘するなどのことが考えられます。

4,また「労働契約法制に着目すると、解雇を容易にすることも実は労働者保護につながる可能性がある」と書いていますが,舌足らずでした。直後に整理解雇の話と書いていますが,懲戒解雇や普通解雇,また使用者による恣意的な解雇との区別をする必要があります。
現在は,下記のページに転載した昨年の経済教室に書いたように,また最近多くの論者が主張するように,契約の多様化が重要と考えています。そして多様な契約の中には,雇用保障の内容や程度がこれまでとは違う類型も含まれることになります。
http://lab.arish.nihon-u.ac.jp/munetomoando/nikkei090716.html

5,最後に「現在の正社員はこの点から言えば既得権者なのである」という記述も言い過ぎというか表現の選択を間違えています。現時点で書き直せるなら,現在正規雇用の人が非正規や求職中の人,そして若者に対して「努力が足りない」とか「自己責任」とだけ言うのはおかしいですよと述べた上で,労働者を守るとは現時点で正規雇用の人を守ることではないのですと書くでしょう。

以上,反省してみました。

2010年10月1日金曜日

労使の自治に委ねよ

【日本経済新聞 経済教室(2006年12月12日)労働契約を考える(上)】

賛否両論がある自律的労働時間

厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で、ホワイトカラーを対象とした時間に縛られない働き方(日本版ホワイトカラー・エグゼンプション)の是非についての議論が進んでいる。ホワイトカラー・エグゼンプションとは、一定の条件を満たすホワイトカラー労働者に対して、現行の労働時間規制を免除する制度である。

日本経団連などは、自律的に働き、時間の長短でなく成果や能力などで評価されることがふさわしい労働者に向いているとして、この導入を求めている。一方で、制度の導入は賃金の切り下げと長時間労働をもたらしかねず到底容認できないとする反対意見も強い。以下では、制度導入が、低賃金・長時間労働につながるのかどうか考えてみたい。

まず賃金切り下げを考えてみよう。確かに制度導入により現状の賃金体系のままで残業代だけが削られれば、実質的な賃下げとなる。しかし、労働者の待遇は労使間の交渉によって決まり、交渉力を対等に近づけるためにも現実には労働組合の団体交渉など様々な対策が採られている。従って一方的に条件が切り下げられるとは限らない。

また企業は製品やサービスの市場だけでなく、労働者の新卒・中途採用の市場でも競争している点を考慮すべきだろう。競争の圧力があれば、企業は利潤を追求する経済主体であるからこそ一方的な条件の切り下げは行わないだろう。仮に他の企業が低い条件で労働者を処遇していれば、それよりも少し良い条件を提示することで有能な新卒者や中途入社の社員を獲得することができるからである。こうした企業間競争が働けば、労働者の待遇は適切な水準に上昇すると考えられる。

一方、企業間競争が不完全ならばそうはならない。つまり労働者保護に必要なのは、透明性の高い契約交渉を奨励し、労働条件を第三者にも見えやすくすることであり、これらを通じて採用市場における競争を維持することが肝要といえる。

時間規制導入は根拠ある数字で

労働者の待遇は、一律に規制せずに、可能ならばこれを市場に任せるほうが望ましい。なぜなら正当な待遇とは何かを一律に決めたり外部の人間が判断するのがそもそも難しいからである。例えば現状で当人の貢献に見あった収入を得ていないように思われる労働者がいても直ちに不当であるとはいえない。

現在の低賃金は年功序列賃金制度に基づくものかもしれないし、昇進によって事後的に報われる可能性を考慮すれば正当かもしれないからである。また経験と実績を積んで転職市場での自らの価値を上げることが、長時間働く当人の目的かもしれない。不当かどうかを判断する際に必要なのは、生涯全体で見た賃金と生産性との比較考量である。

エグゼンプションが導入されると無制限な労働が強制されるとの主張も同様に間違いである。労働者が情報をほとんど持っていない、または合理的に判断できない場合を除けば、労働市場での競争が問題をかなりの程度解決するだろう。先ほどと同様、ライバル企業が不当な長時間労働を課していれば、それより良い条件を提示することで優秀な労働者を引きつけることができるからだ。

以上で述べたように、エグゼンプションが導入されたらすぐにあらゆる企業がこれを活用し、賃金の大幅削減と長時間労働に直結すると安易に結論付けるのは間違いである。労働者を不当な低賃金や過酷な労働から守るには、一義的には労働市場における競争環境の整備が重要なのであり、その上で労使自治に任せるのが原則である。

ただしこれまでの議論が成立するのは、労働条件が悪ければ労働者が転職・離職を合理的に判断できる場合である。しかし、過労死が少なからず発生している現状を見れば、自分の健康状態をうまく管理できない、また精神的に追いつめられて適切な判断が下せない労働者も一定程度は存在しているだろう。

こうした人々を保護するには、週40時間といった医学的に根拠のない規制ではなく、データに基づく労働時間規制や健康状態の確認などが必要である。例えば2001年に示された厚労省の過労死認定基準によれば、残業時間が疾患発症前1ヶ月に月100時間あるいは同2-6ヶ月間にわたり月80時間を超えると、業務と発症との関連性が高いとされている。時間規制を検討する際は、このような裏付けのある数字を参考にする必要がある。

成長維持こそ労働者を守る

次に労働者を守るために他に何が効果的なのか考えてみよう。まず挙げられるのは高い経済成長を安定的に維持することである。現在の有効求人倍率と失業率を見ても分かる通り、景気が良くなれば企業間競争を通じて労働条件は改善する。そのためにも適切なマクロ経済政策が必要である。

また労働契約法制に着目すると、解雇を容易にすることも実は労働者保護につながる可能性がある。これは一見、矛盾するように聞こえるかもしれない。しかし整理解雇がしやすくなれば新たな正社員の採用が容易になるだけでなく、景気後退局面で企業の経営状態の回復が早まる効果も見込める。解雇を容易にするとの考え方は労働者の保護をしなくてよいという主張ではない。労働者の保護を個別企業に担わせるのではなく、雇用保険などを通じて一国全体で負担する方が多くの場合効率的になるのである。

繰り返しになるが、企業は利益を追求する経済主体であり、だからこそ競争環境さえ維持されていれば労働者に不当な取り扱いをしないのだ。仮にそのような行為を行なえば当該企業の評判が傷つき、優秀な社員から順に退職してしまい、さらには採用活動に大きな悪影響を与えるからである。

弱者保護は不可欠である。しかし、すべての労働者を弱者とみなすのは適当ではない。また、弱者保護という目的は正しくても、手段を適切に選ばなければ弊害が大きくなりすぎることになる。考えるべきは、労働時間規制や割増賃金の支払い義務が労働者の健康状態をコントロールする適切な方法なのかという点である。例えば残業手当の支払い義務が労働時間抑制に役立つとは限らない。残業手当には、使用者が労働者に残業をさせなくなる効果だけでなく、残業代があるからこそ労働者が望んで残業をするという可能性があるからだ。

また時間管理という手法が実効性のある制度かどうかも重要である。労働時間規制があっても、昇進や実績作りのために働きたい人は家に持ち帰ってでも仕事をするだろうから、タイムカードで管理すればそれで十分というものでもない。またなぜ残業代がきちんと請求されないのかも興味深い論点である。残業代の総額や請求可能な時間が決まっているから請求しないのではなく、自発的に申告していない可能性もあるのだ。例えば割り当てられた業務を残業なしでこなした方が優秀であると評価されて昇進できる確率が上がると労働者が考えている場合には、請求可能でも請求しないかもしれない。

労働時間や労働契約に対する規制を設けることは一見、労働者保護のように見える。しかしながら正社員への保護を強めれば、企業は代替労働力としてパート社員や派遣社員を利用するだろうし、非正規雇用から正規雇用への転換を強制すれば労働力を海外に求めるようになるだろう。このように結果として労働者全体の首を絞めることにもつながりかねない。

労働者の保護というときに誰が保護対象なのかも注意する必要がある。現時点で正社員として働いている労働者の保護を強化すると、今後の採用活動が抑制され、これから労働者になろうとする若者などは不利益を被ることになる。現在の正社員はこの点から言えば既得権者なのである。過労死など不幸な問題を引き起こさないためにも、理論とデータに基づいた制度設計が求められる。

今後の方針

このBlogでは,これまで私が政策研究大学院大学(GRIPS)で開講している「政策分析のためのミクロ経済学I/II」で出題した試験問題を公開してきました。しかし過去問は一通り掲載してしまったので,今後は様々な内容の記事を書いていきたいと思います。

2010年9月8日水曜日

問題21

私たちの社会では,公共性が高い仕事を公務員とそれ以外の人々の両方が行っていることが多く見られます。例えば,国立や公立の小学校の先生は公務員ですが私立学校の場合にはそうではありません。また市営バスの運転手さんは公務員ですが民営バスの運転手さんは違います。

このように提供されるサービスに公共性が高いかどうかと,その仕事を公務員が行うかどうかは必ずしも一致しません。道路や橋を造る際には,公務員が直接やらずに,国や自治体がお金を出して民間企業に発注することが一般的でしょう。

最近,新しく民間に委託される仕事が増えてきました。例えば,平成18年6月より駐車違反の取り締まりに関係する事務の民間への委託が始まりました。

公的な仕事を公務員が直接行うのではなく民間企業に任せることにはいくつかのメリットがあると考えられています。どのようなメリットがあるのかを説明しなさい。その際には最低でも2つ以上のメリットを挙げること。

問題20

携帯電話のナンバーポータビリティ制度(MNP制度)が平成18年11月に導入されました。以前は,事業者ごとに使用できる電話番号が決まっていたために,利用者が異なる携帯電話事業者のサービスに乗り換える際には番号の変更が必要でしたが,制度導入によりこれまでと同じ電話番号を引き続き使えるようになりました。

MNP制度によって誰がどのようなメリットを受けたのでしょうか。直接的な受益者は誰でどのようなメリットがあったのか,また間接的な受益者は誰でどのようなメリットがあったのかといった形で,できるだけ多様な利害関係者の視点から説明してください。

問題19

皆さんは,なぜ家の周りの生活道路では自動車の速度制限が時速40キロメートルになっているのかを考えたことがありますか。なぜ規制の水準は時速30キロメートルや50キロメートルではないのでしょうか。

ある政策目的を達成するための規制を行う際に,どの程度の規制を行うことが望ましいかを判断するためには規制に伴うトレードオフの関係を見抜くことが必要です。トレードオフとは,「あちらを立てればこちらが立たず」といったように,望ましいと思われる二つのことを両立させることが難しい状態を意味しています。

生活道路における速度制限にはどのようなトレードオフの関係があるのかを説明しなさい。その際には,制限速度が低すぎると何が起こるのか,また高すぎると何が起こるのかといった形で述べること。

2010年9月7日火曜日

問題18

ある政党Aから下に引用したような政策提言があったとします。そしてあなたはA党ではなく政党Bで政策分析の仕事に就いているとしましょう。ここでB党の議員より,「このA党の見解の間違っているところを国民に説明するための資料を作成して欲しい」旨の依頼がありました。

この見解に反論するためにはどのような調査や統計データが必要になるかについて言及した上で,国民にどのように間違いを説明すれば良いのか述べなさい。

A党の政策提言:「2006年に道路交通法が改正されたことで,駐車違反の取り締まりが大幅に強化された。禁止区域に少し路上駐車をしただけで,すぐに違反として取り締まられてしまうので,自動車で出かける頻度が少なくなった人が多いはずである。 
自動車の走行距離が少なくなれば,当然買い換えの時期に至るまでの期間も長くなるために自動車メーカーの売り上げが落ちてしまう。それに応じて生産量も減らされることになり,結果として自動車工場で人手が余ってしまうことにつながる。これは最近問題になっている派遣労働者の派遣切りの原因の一部であるといえないだろうか。 
そこで労働者の解雇を防ぐために,駐車違反の取締りを撤廃するべきだ。自動車をどこにでも駐車できるようになれば,自動車への需要が増えて,自動車産業が発展し,結果として景気回復に役立つのである。」

問題17

アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)とは,多くの国で大学の入学試験,企業の採用や昇進の際に実際に利用されている制度です。これは例えば,大学入試や企業の採用のケースでは,人種や性別ごとにあらかじめ合格・採用する人数を割り当てることや,企業における昇進の際に女性が占める割合の最低限をあらかじめ定めておくことなどを指しています。実例を挙げるなら,以前は,フランスでは国会の議席が男性ばかりにより占められることを防ぐために,あらかじめ男性の議席と女性の議席を半分ずつにしていました(現在はより複雑な制度を用いて女性の政治活動を支援しています)。

このような取り組みはなぜ必要なのでしょうか(もしくは不要なのでしょうか)。このような制度についてメリットとデメリットの両面から議論しなさい。その際に,「インセンティブ」という用語を少なくとも一回は使うこと。

問題16

犯罪の加害者として逮捕された人が,被疑者の段階でマスコミにより実名報道されてしまうケースは多く見られます。実名報道の例外としては,少年が起こした事件などが挙げられます。一方で,加害者(被疑者)ではなく被害者の実名や写真が新聞や雑誌,テレビ等で報道されることもよくあります。

このことについて不思議に思ったことはありませんか。なぜ犯罪加害者だけでなく被害者の名前が公開されるのでしょうか。プライバシーの観点から問題はないのでしょうか。この件に関して以下の問いに答えなさい。

(1) まず,なぜ犯罪の加害者の名前が公開されるのかを考えてみましょう。ここでは被疑者の段階で公表することの是非は考えず,有罪が確定した後の報道について検討することにします。

加害者の氏名が公開されることのメリットとデメリットを述べた上で,なぜ公開することが正当化され得るのかを説明しなさい。ただし講義で扱った経済学的なアプローチを用いること。

(2) 次に犯罪被害者の実名報道について考えましょう。なぜ被害者の名前をマスコミに公開することが必要なのでしょうか。

ここで被害者の名前をマスコミに提供するか否かを警察が事件毎に判断するルールと比較して,被害者の名前を警察がマスコミには常に提供した上で,マスコミが公開するか否かを自主的に判断する(または被害者の同意がなければ一般には公開しない)というルールにはどのようなメリットとデメリットがあるでしょうか。様々な関係者の利害とインセンティブについて多面的に検討すること。

ただしここでは,警察がマスコミに公開することとマスコミが世間に公開することとを区別していることに注意してください。

問題15

「二大政党制の下では,両党が打ち出す政策や公約が似通ったものになりやすい」という話はホテリングの立地ゲームの応用問題として有名です。ここでは状況を少し変えて,両党が同時に公約を選択するのではなく,政党Aが先に政策を決定・公表し,それを見た上で政党Bが政策を決定するケースを考えてみましょう。なお一度公表した政策ポジションは変更できないものとします。


有権者は0から1までの数直線上に均等に連続的にならんでいるとします。有権者たちの位置は,政策に対する個々人が持つ好みを表していて,彼らは自分の好みに最も近い政策を打ち出した政党に投票すると想定します(両政党の打ち出した政策への距離が等しいなら等確率でランダムに投票します)。

また各政党は,イデオロギー的な好みはなく単に得票率を最大にすることを目標としています。このときこのゲームの均衡(=各政党にとっての互いに最適となる戦略の組み合わせ)はどのようなものになるかを説明しなさい。

ヒント:戦略と行動は違います。戦略を記述するためには,何が起こったらどのように対応するかについての完全な行動計画を考える必要があります。

2010年8月30日月曜日

問題14

企業の合併を公正取引委員会が審査する状況を考えてみましょう。現在は大手二社の複占の状況であり,両社はこれまで同質財の数量競争(=市場への供給量を同時に選択する)をしてきました。この財に対する逆需要関数は下の図にあるように切片が1で傾きが−1,また生産にかかる限界費用は,合併前の現時点では両社とも1/4で一定とします。なお両社はこの市場だけで操業しています。

(1) 合併前の社会的余剰(=総余剰)の大きさを求めなさい。

(2) ここで両社が合併すると,競争が無くなるデメリットがある一方で,企業規模が大きくなること,また研究開発が効率的になること等の理由で,限界費用がこれまでよりも低いc円まで低下するとしましょう。
公正取引委員会が社会的余剰の最大化を目的として判断を下すとするなら,cがどのような条件を満たしているときに合併を認可するべきでしょうか。望ましい基準を述べなさい。



問題13

現在,わが国で新薬を販売しようとするときには,一定の手続きに従って医薬品の承認審査を受ける必要があります。

(1) このような規制はなぜ必要なのでしょうか。「市場の失敗」という言葉を用いて説明しなさい。

(2) この承認審査では,どの程度の精度の検査をすべきでしょうか。副作用が発生しないことを100%確認できるまでは販売を認可しないというのではなく,それよりも低い承認基準を設定することが正当化されるとしたらその理由はどのようなものか説明しなさい。

問題12

年金型生命保険の保険金に対して,現状では相続税と所得税の二重課税になっているとして遺族が訴えた裁判において,平成22年7月6日に「所得課税は違法」とする最高裁判所の初の判断が下されました。それにより同様のケースにおいて,他の人々も払いすぎた税金を取り戻すことができることになりました。またこのような最高裁判所の判決とその論理構成は,判例として今後の裁判所の判断に大きな影響を与えることになるでしょう。

このような裁判では,自らが原告となり訴訟費用を負担しなくても,誰か他人が訴えを起こしてくれれば,その判決にただ乗りできることになります。よって社会的には提訴することが望ましい事案であっても提訴されない可能性があるのではないでしょうか。

この問題を解消・軽減するためにはどのような施策が必要であるかについて,その施策にどのような弊害があるのかにも言及する形で提案してください。

問題11

大学における教育に対しては,国立大学であるなら国から学生数等に応じて運営費交付金が支払われています。また私立大学に対しても私学助成が行われています。このような補助金が支出されていることの政策的な根拠はどのようなものでしょうか。

ここで街の人々の意見を聞いてみましょう。

  • Aさん「大学に行くことで本人の能力が向上し卒業後に得られる賃金が上昇するのであれば,奨学ローンを整備するだけで十分だと思う。」
  • Bさん「大学生といっても勉強している人とそうでない人の差は大きい。また少なくとも就職しない人や専業主婦になる人に対しては,補助金の支出は不要なはずだ。」
これらの意見を参考に,大学生の教育に税金を支出することに対する賛否を述べなさい。その際には効率性の観点からの検討を加えて理由を明記すること。

問題10

宅配便は,平成21年度の取り扱い個数で見ると,ヤマト運輸がシェア40.6%でトップであり,佐川急便がシェア36.2%で二位になっています。このような上位企業への集中がなぜ発生するのかを自然独占という用語を用いて説明しなさい。その際にはなぜ新規参入が難しいのかについても言及すること。

問題9

苗を植えてから半年後に収穫が可能になるような特定の農作物の市場を考えます。また,この財はトラック等で安価に輸送できるため,市場は全国で共通しているとします。

ここで他の地方は例年どおりの作柄であったのに対して,東北地方のみ天候不順によりこの農作物の収穫量が減ったとしましょう。このとき東北地方の農家とそれ以外の農家が得られる収入は例年と比べてそれぞれどのように変化するでしょうか。

東北地方以外の農家の収入は必ず増加すること,また東北地方の農家の収入は減る場合と増える場合があることを下の図を用いて説明しなさい。



ヒント:作図をする際に,苗を植える段階と収穫した段階を分けて考えると良いでしょう。また苗を植える段階での東北以外の農家の供給曲線と例年の総供給曲線を図に記入することが必要になります。

2010年8月27日金曜日

問題8

自動車の自動車検査登録制度(車検制度)はなぜ必要なのでしょうか。例えば自家用車を購入した場合には,まず3年後に,そしてその後は2年毎に検査を受ける必要があります。

ここで「整備不良の自動車に乗っていたら自分がケガをするだけだ。だから規制により義務付けなくても問題はない。なぜ自己責任ではダメなのか」という意見を持つ人に対して,なぜ自動車の整備に関して規制や義務付けが必要なのか理解してもらうためにはどのような説明をすれば良いでしょうか。講義で扱った市場の失敗のうちのいずれかの考え方を用いて,車検制度が必要な理由を説明しなさい。

2010年8月25日水曜日

問題7

現在,総選挙を前にして高速道路を無料化するべきかどうかについての議論が行われています。ここでは通行料金をどのように決めることが望ましいのかという問題を考えてみましょう。その際には,本質的な問題が分かりやすくなるように,以下のような簡単化した仮定の下で分析したいと思います。

まず一定の区間に注目したときに,実際には平日と休日では,また昼間と夜間とでも交通量が異なると思いますが,ここでは一日を通じて安定しているものと考えることにします。また道路の維持補修にかかる費用はゼロとします。そして,この区間が渋滞していないことを前提としたときの通行料金と利用希望者数の関係を調べたところ,下のグラフのように,0≦p≦aの範囲で,q=1−p/aという関係になっているとします。


このとき以下の問に答えなさい。

(1) 高速道路の車線数が十分に多く,希望者全員が利用したとしても混雑が発生しない場合を考えます。このとき,通行料金をいくらにすれば社会的余剰が最大になりますか。

(2) 次により現実的な問題を考えるために,一日の交通量が0.7を超えると渋滞が発生するとしましょう。そして渋滞が発生した場合には,個々の利用者の満足度が半分に低下するものとします(実際は渋滞の程度に応じて満足度が変わると思いますが,ここでは渋滞の有無だけを考えていることに注意してください)。このとき社会的余剰を最大にする通行料金はいくらでしょうか。また交通量が0.2を超えると混雑が発生するとしたら,社会的余剰を最大にする通行料金はいくらでしょうか。それぞれ答えなさい。

2010年8月23日月曜日

問題6

オーストリアのウィーンでは,201071日より,気性の荒い大型犬(13種類とその混血種が指定されている)を飼う場合には免許が必要になりました。例えば,ドーベルマンは勝手に飼うことができますが,土佐犬を飼うには免許が必要です。

免許を取得するためには受験料25ユーロを払って筆記試験と実技試験を受ける必要があります。なお免許を持たずに指定された種類の犬を飼っていた場合には,最高で14,000ユーロの罰金が課されることになっています。

(1) このように特定の種類のペットを飼う際に免許を要求する制度がなぜ必要なのかを説明しなさい。その際に「市場の失敗」という言葉を用いること。

(2) この制度では,すべての犬を免許の対象としているわけではありません。対象を選別する際に適切な基準とはどのようなものでしょうか。効率性の観点から説明しなさい。

2010年8月22日日曜日

問題5

東京都では,家庭ゴミの収集は無料ですが事業系ゴミは有料となっています。そして,企業や商店がゴミを出す際にはコンビニ等で売られているシールをゴミ袋に貼る必要があります。例えば30リットルのゴミ袋を収集してもらう際には,30リットル分のシールを購入して袋に貼ることになります。

このようなルールに対して,個人商店を経営する安藤さんから以下のような意見が寄せられたとしましょう。

「工場や商店だけでなく,普通の人々もゴミを排出している。よって個人も法人も等しく扱って欲しい。つまり法人から料金を徴収するなら一般家庭からも徴収して欲しい。家庭ゴミが無料なら事業系のゴミも無料で回収すべきである。」

このような意見に対して,現行制度は効率性の観点からどのように正当化可能なのかを考えて,意見を寄せてくれた安藤さんに説明してください。

ヒント:温室効果ガスの排出を抑制する目的での課税や排出権取引に関して,その対象を企業に限るか個人にも適用するかについて考えた場合にも同様の説明が成り立ちます。

問題4

ボトルで売られている赤ワインの需要曲線を描いてみましょう。ここでは特別な地域や生産者のものではなく,誰もが気軽に飲めるようなワインに注目し,そのようなワインが一種類しか存在しないケース(またはすべてのデイリーワインの品質の差は誤差の範囲と消費者たちに認識されているケース)を想定します。

いま多数の消費者と生産者がいて,市場は競争的であり,個々の消費者と生産者は市場で付けられている価格を見た上で赤ワインを何本買うか,また何本生産するかを決めているとします。ただし登場人物の数が多すぎると話が複雑になるので,ここではAさんとBさんという二人の消費者に注目しましょう。

ここで二人がワインに対して支払っても良いと頭の中で考えている上限の金額は,それぞれ以下のようになっているとします。


  • Aさんは,もちろん値段が高すぎれば一本も買わないこともありますが,ワインを二本までなら買ってもよいと考えています。そして,一本だけ買うなら3000円まで,また二本まとめて買うなら合計で5000円までなら支払っても良いと考えています。
  • 一方のBさんは,このワインを三本まとめて買いたいと考えています。一本や二本ならいりません。また四本以上もいりません。そして三本まとめて7500円までなら出しても良いかと思っています。もちろんそれよりも安ければよろこんで買います。

このときのAさんとBさんの需要曲線を合わせた市場需要曲線を描きなさい。

2010年7月27日火曜日

問題3

JR四ツ谷駅に近い公共の自転車置き場では,最近,自転車を固定する器具と精算機が設置されました。その上で,写真にあるように,最初の2時間までは無料ですが,それを超えると100円が課金される新制度が導入されました(以後24時間ごとに100円が加算されます)。

(1) 新宿区は,どのような政策目標に対処するためにこの新制度を導入したのでしょうか。この制度の目的を述べなさい。

(2) なぜこのような時間・料金が設定されたのでしょうか。最初の2時間までは無料であるがその後は課金される制度が持つ望ましい性質について考察しなさい。

(3) この制度よりも優れた施策か,少なくとも一長一短がある施策をひとつ提案しなさい。その上で,なぜ提案した施策の方が優れているのか,または両者の間にある一長一短の関係を説明しなさい。


2010年7月25日日曜日

問題2

図2には,供給が非弾力的な市場における需要曲線と供給曲線が描かれています。この市場は完全競争市場であり,現時点での市場均衡価格は 500 円になっています。
ここで生産者側に対して,一単位の取引あたり新たに 300 円の課税がされることになりました。このとき供給関数がどのように変化するのかを図示しなさい。

ヒント:供給関数が単純に移動するだけでなく形状が変わります。

問題1

突然ですが,問題です。


図1には,ある自治体が提供する水道サービスに対する一ヶ月あたりの市場需要関数と供給にかかる限界費用(=追加的に一単位供給した場合に増加する費用)が描かれています。この図では,縦軸は単位水量(m3:立方メートル)あたりの単価を,また横軸は数量を表しています。そして水の供給にかかる限界費用はc円で一定としましょう。

(1) ここで生活必需品だからという理由で,住民に対して水を無料で提供する場合,死荷重の大きさはどの程度になるでしょうか。図示しなさい。また自治体の赤字はどの程度になるでしょうか。

(2) 水が無料だと無駄遣いされてしまうこと,また自治体の財政が赤字になってしまっては困ることを理由として,水道契約一件あたり毎月5000円の定額を水道料金として徴収することにします。このとき発生する死荷重の大きさはどの程度になるでしょうか。図示しなさい。場合分けが必要であることに注意すること。

(3) 社会的余剰を最大にするためには,どのような課金をするべきでしょうか。



2010年3月25日木曜日

Blogを始めます。

新学期を前にしてblogを作成しました。いつまで続くかは分かりません。