2010年9月8日水曜日

問題21

私たちの社会では,公共性が高い仕事を公務員とそれ以外の人々の両方が行っていることが多く見られます。例えば,国立や公立の小学校の先生は公務員ですが私立学校の場合にはそうではありません。また市営バスの運転手さんは公務員ですが民営バスの運転手さんは違います。

このように提供されるサービスに公共性が高いかどうかと,その仕事を公務員が行うかどうかは必ずしも一致しません。道路や橋を造る際には,公務員が直接やらずに,国や自治体がお金を出して民間企業に発注することが一般的でしょう。

最近,新しく民間に委託される仕事が増えてきました。例えば,平成18年6月より駐車違反の取り締まりに関係する事務の民間への委託が始まりました。

公的な仕事を公務員が直接行うのではなく民間企業に任せることにはいくつかのメリットがあると考えられています。どのようなメリットがあるのかを説明しなさい。その際には最低でも2つ以上のメリットを挙げること。

問題20

携帯電話のナンバーポータビリティ制度(MNP制度)が平成18年11月に導入されました。以前は,事業者ごとに使用できる電話番号が決まっていたために,利用者が異なる携帯電話事業者のサービスに乗り換える際には番号の変更が必要でしたが,制度導入によりこれまでと同じ電話番号を引き続き使えるようになりました。

MNP制度によって誰がどのようなメリットを受けたのでしょうか。直接的な受益者は誰でどのようなメリットがあったのか,また間接的な受益者は誰でどのようなメリットがあったのかといった形で,できるだけ多様な利害関係者の視点から説明してください。

問題19

皆さんは,なぜ家の周りの生活道路では自動車の速度制限が時速40キロメートルになっているのかを考えたことがありますか。なぜ規制の水準は時速30キロメートルや50キロメートルではないのでしょうか。

ある政策目的を達成するための規制を行う際に,どの程度の規制を行うことが望ましいかを判断するためには規制に伴うトレードオフの関係を見抜くことが必要です。トレードオフとは,「あちらを立てればこちらが立たず」といったように,望ましいと思われる二つのことを両立させることが難しい状態を意味しています。

生活道路における速度制限にはどのようなトレードオフの関係があるのかを説明しなさい。その際には,制限速度が低すぎると何が起こるのか,また高すぎると何が起こるのかといった形で述べること。

2010年9月7日火曜日

問題18

ある政党Aから下に引用したような政策提言があったとします。そしてあなたはA党ではなく政党Bで政策分析の仕事に就いているとしましょう。ここでB党の議員より,「このA党の見解の間違っているところを国民に説明するための資料を作成して欲しい」旨の依頼がありました。

この見解に反論するためにはどのような調査や統計データが必要になるかについて言及した上で,国民にどのように間違いを説明すれば良いのか述べなさい。

A党の政策提言:「2006年に道路交通法が改正されたことで,駐車違反の取り締まりが大幅に強化された。禁止区域に少し路上駐車をしただけで,すぐに違反として取り締まられてしまうので,自動車で出かける頻度が少なくなった人が多いはずである。 
自動車の走行距離が少なくなれば,当然買い換えの時期に至るまでの期間も長くなるために自動車メーカーの売り上げが落ちてしまう。それに応じて生産量も減らされることになり,結果として自動車工場で人手が余ってしまうことにつながる。これは最近問題になっている派遣労働者の派遣切りの原因の一部であるといえないだろうか。 
そこで労働者の解雇を防ぐために,駐車違反の取締りを撤廃するべきだ。自動車をどこにでも駐車できるようになれば,自動車への需要が増えて,自動車産業が発展し,結果として景気回復に役立つのである。」

問題17

アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)とは,多くの国で大学の入学試験,企業の採用や昇進の際に実際に利用されている制度です。これは例えば,大学入試や企業の採用のケースでは,人種や性別ごとにあらかじめ合格・採用する人数を割り当てることや,企業における昇進の際に女性が占める割合の最低限をあらかじめ定めておくことなどを指しています。実例を挙げるなら,以前は,フランスでは国会の議席が男性ばかりにより占められることを防ぐために,あらかじめ男性の議席と女性の議席を半分ずつにしていました(現在はより複雑な制度を用いて女性の政治活動を支援しています)。

このような取り組みはなぜ必要なのでしょうか(もしくは不要なのでしょうか)。このような制度についてメリットとデメリットの両面から議論しなさい。その際に,「インセンティブ」という用語を少なくとも一回は使うこと。

問題16

犯罪の加害者として逮捕された人が,被疑者の段階でマスコミにより実名報道されてしまうケースは多く見られます。実名報道の例外としては,少年が起こした事件などが挙げられます。一方で,加害者(被疑者)ではなく被害者の実名や写真が新聞や雑誌,テレビ等で報道されることもよくあります。

このことについて不思議に思ったことはありませんか。なぜ犯罪加害者だけでなく被害者の名前が公開されるのでしょうか。プライバシーの観点から問題はないのでしょうか。この件に関して以下の問いに答えなさい。

(1) まず,なぜ犯罪の加害者の名前が公開されるのかを考えてみましょう。ここでは被疑者の段階で公表することの是非は考えず,有罪が確定した後の報道について検討することにします。

加害者の氏名が公開されることのメリットとデメリットを述べた上で,なぜ公開することが正当化され得るのかを説明しなさい。ただし講義で扱った経済学的なアプローチを用いること。

(2) 次に犯罪被害者の実名報道について考えましょう。なぜ被害者の名前をマスコミに公開することが必要なのでしょうか。

ここで被害者の名前をマスコミに提供するか否かを警察が事件毎に判断するルールと比較して,被害者の名前を警察がマスコミには常に提供した上で,マスコミが公開するか否かを自主的に判断する(または被害者の同意がなければ一般には公開しない)というルールにはどのようなメリットとデメリットがあるでしょうか。様々な関係者の利害とインセンティブについて多面的に検討すること。

ただしここでは,警察がマスコミに公開することとマスコミが世間に公開することとを区別していることに注意してください。

問題15

「二大政党制の下では,両党が打ち出す政策や公約が似通ったものになりやすい」という話はホテリングの立地ゲームの応用問題として有名です。ここでは状況を少し変えて,両党が同時に公約を選択するのではなく,政党Aが先に政策を決定・公表し,それを見た上で政党Bが政策を決定するケースを考えてみましょう。なお一度公表した政策ポジションは変更できないものとします。


有権者は0から1までの数直線上に均等に連続的にならんでいるとします。有権者たちの位置は,政策に対する個々人が持つ好みを表していて,彼らは自分の好みに最も近い政策を打ち出した政党に投票すると想定します(両政党の打ち出した政策への距離が等しいなら等確率でランダムに投票します)。

また各政党は,イデオロギー的な好みはなく単に得票率を最大にすることを目標としています。このときこのゲームの均衡(=各政党にとっての互いに最適となる戦略の組み合わせ)はどのようなものになるかを説明しなさい。

ヒント:戦略と行動は違います。戦略を記述するためには,何が起こったらどのように対応するかについての完全な行動計画を考える必要があります。