2010年9月7日火曜日

問題16

犯罪の加害者として逮捕された人が,被疑者の段階でマスコミにより実名報道されてしまうケースは多く見られます。実名報道の例外としては,少年が起こした事件などが挙げられます。一方で,加害者(被疑者)ではなく被害者の実名や写真が新聞や雑誌,テレビ等で報道されることもよくあります。

このことについて不思議に思ったことはありませんか。なぜ犯罪加害者だけでなく被害者の名前が公開されるのでしょうか。プライバシーの観点から問題はないのでしょうか。この件に関して以下の問いに答えなさい。

(1) まず,なぜ犯罪の加害者の名前が公開されるのかを考えてみましょう。ここでは被疑者の段階で公表することの是非は考えず,有罪が確定した後の報道について検討することにします。

加害者の氏名が公開されることのメリットとデメリットを述べた上で,なぜ公開することが正当化され得るのかを説明しなさい。ただし講義で扱った経済学的なアプローチを用いること。

(2) 次に犯罪被害者の実名報道について考えましょう。なぜ被害者の名前をマスコミに公開することが必要なのでしょうか。

ここで被害者の名前をマスコミに提供するか否かを警察が事件毎に判断するルールと比較して,被害者の名前を警察がマスコミには常に提供した上で,マスコミが公開するか否かを自主的に判断する(または被害者の同意がなければ一般には公開しない)というルールにはどのようなメリットとデメリットがあるでしょうか。様々な関係者の利害とインセンティブについて多面的に検討すること。

ただしここでは,警察がマスコミに公開することとマスコミが世間に公開することとを区別していることに注意してください。

2 件のコメント:

  1. (1)
    (メリット)
    ・犯罪の機会コストを増加させることで、同様の犯罪の発生を抑制する効果がある。つまり、犯罪を起こすとマスコミを通じて、広く名前が公開され、様々な社会的な制裁を受ける。そのコストが、犯罪を起こし一時的に得る便益を上回るようにする狙いがある。
    (デメリット)
    ・えん罪の場合でも名前が公表されてしまうため、被害者が通常の生活に戻るための費用は、匿名の場合に比べ多大となる。
    (結論)
    通常、えん罪を起こさないように警察の捜査を行うことを前提にすると、メリットがデメリットを上回るので、加害者の実名公表には正当性がある。

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  2. (2)警察は事件を解決する能力に長けており、マスコミは視聴者が何を知りたいか(あるいは、何を知らせると倫理面等で問題があると怒られるか)をつかむ能力に長けている。よって、公開するか否かはマスコミが判断した方がよいという考え方もできる。

    メリット:マスコミは売り上げや視聴率を伸ばすために、視聴者が知りたい情報を流すインセンティブが働き、生産者余剰が増大し、視聴者も、情報を知ったことによる満足度が増大する。

    デメリット:大企業であるマスコミは、被害者の気持ちを無視して何でもかんでも報道したら最終的に信用力が落ちることもわかっているのでそれほどでもないかもしれないが、目立ちたいマスコミは売り上げアップや会社の知名度アップを目指して被害者の情報を報道するインセンティブが働き、結果として被害者やその家族を傷つけるリスクがある。犯罪の内容によっては、被害者が差別されることもある(オレオレ詐欺にひっかかったとか、浮気したら刺されたとか・・・)。警察が判断してマスコミに情報を流さなければ、防げることである。

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