2011年1月14日金曜日

法的規制とインセンティブに働きかける制度設計の連携

こんにちは。今日はタバコのポイ捨てをいかに防ぐかという問題を例に挙げて,法的規制とインセンティブに働きかける制度設計の連携について考えたいと思います。

さて,いま政策や制度をデザインする立場にある人が,何らかの目標を達成するための制度設計を考えているとします。このとき動機付け(インセンティブ)には大きく分けてアメとムチがありますね(内発的動機等の論点は,今はとりあえずおいておきます)。

ムチとしての代表は法的な規制と,それに伴う罰則です。しかしこれだけでは不十分な場合も多く見られるため,誘導したい行為や結果を得るためにインセンティブ制度(アメ)を併用することが重要となります。

以下では,例としてタバコの吸い殻のポイ捨て防止を考えることにします。どうすればポイ捨てを減らすことができるのでしょうか。役所の担当者の気持ちになって考えてみましょう。

まず「ポイ捨てかっこわるい」といったキャンペーンを行うこと,また法律で直接的に規制することなどが考えられます。ここで規制する場合には,どう取り締まるかが問題となるでしょう。似ているような気がする問題として,自動車の路上駐車取り締まりがありますが,こちらは比較的取り締まりが容易です。なぜなら路上駐車とは車を置いて一定時間離れることなので。

しかし同様にポイ捨てを取り締まる担当者を少しくらい街に配置しても意味はないのではないでしょうか。それは,ポイ捨てをする人は取り締まる人の目の前では捨てないと思われるからです。捨てるなら誰も見ていないタイミングを見計らって捨てるはずですね。

ここで摘発が難しいからといって,罰則を強化しすぎても弊害があります。例えばタバコのポイ捨てを見つかったら罰金100万円といった制度を導入したら何が起こるでしょうか。このとき,ポイ捨てを見つけた取り締まり係と捨てた人との間での裏取引が起こる可能性がありますね。例えば,見つかった人が「1万円あげるから見なかったことにしてね」と取り締まる人に提案するかもしれません。しかしもっと問題なのは,取り締まり係の方が,何もしていない人に難癖をつける場合です。「お前今捨てただろう。罰金100万円だ。それがいやなら俺に10万払え」とかいわれるのは困りますね。怖くて街を歩けません。

このように防ぎたい行為を直接的に禁止して罰則を設けても実効性がない,または弊害が大きそうな場合には,どうすればよういのでしょうか。このときインセンティブに働きかける方法を経済学者は考えるわけです。例えば吸い殻にデポジットを設定してはどうでしょうか。タバコ一本あたり100円のデポジットを販売時に徴収し,吸い殻を20本分集めて販売店に持っていくと2000円返金されるといった制度を導入するのです。

誰も財布の中の100円玉を街にばらまかないですよね。同様に吸い殻をポイ捨てしなくなります。そしてこの制度には,さらに巧妙な仕掛けがあるのです。それは仮に酔っぱらった等の理由でポイ捨てをする人がいたとしても,道で吸い殻を見つけた人がそれを拾って換金しようとすることです。結果として街はきれいになるでしょう。

この施策には当然考慮すべき点はあります。両切りのピースはどうするんだというのは置いておいて,まずは費用です。この制度を運用するためには吸い殻の回収をする窓口を設定するなど費用がかかります。またいちいち吸い殻を店に持っていくこと自体にも費用もかかりますね。それだけではありません。例えば海外から吸い殻だけ輸入されて換金されることへの対策も考える必要があります。これを防ぐにはフィルターにチップ等を埋め込むとかが必要になるのでしょうか。他にどんな問題があるでしょう?考えてみてください。

いずれにせよ,設定した政策目的に対して,規制と罰則の効果と限界を理解し,他に組み合わせられる制度がないかを検討することは政策分析の基本なのです。そして想定できる限りありとあらゆる手法について考察し,ベストのものを選びましょう。このとき規制だけで十分なケースもあるでしょうし,他の施策との組み合わせが有効かもしれません。

さて問題です。ここであげたデポジット制以外にどんな制度が候補として想定できますか?考えてみてください。たとえばタバコ自体を完全に販売輸入禁止にするというのも一案ですね。

ちなみに,事前にさんざん考えたのに,結果として予想外の結果になりうまく行かないことも起こるかもしれません。しかしそれはそれで仕方ないのです。検討の段階でも費用対効果をよく考えるべきですから。検討段階で100%を目指しても,100%にはならないかもしれませんし,なっても遅すぎる可能性があります。HIVの画期的な新薬があっても認可に時間をかけすぎていたら結果として救えた命が失われるかもしれません。何事も比較考量が大切ですね。

というわけで,人々の何らかの行為を防ぎたい場合には,直接的な規制やインセンティブに働きかける制度設計,そしてその併用を考えることが有用なのです。

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