2010年8月30日月曜日

問題14

企業の合併を公正取引委員会が審査する状況を考えてみましょう。現在は大手二社の複占の状況であり,両社はこれまで同質財の数量競争(=市場への供給量を同時に選択する)をしてきました。この財に対する逆需要関数は下の図にあるように切片が1で傾きが−1,また生産にかかる限界費用は,合併前の現時点では両社とも1/4で一定とします。なお両社はこの市場だけで操業しています。

(1) 合併前の社会的余剰(=総余剰)の大きさを求めなさい。

(2) ここで両社が合併すると,競争が無くなるデメリットがある一方で,企業規模が大きくなること,また研究開発が効率的になること等の理由で,限界費用がこれまでよりも低いc円まで低下するとしましょう。
公正取引委員会が社会的余剰の最大化を目的として判断を下すとするなら,cがどのような条件を満たしているときに合併を認可するべきでしょうか。望ましい基準を述べなさい。



問題13

現在,わが国で新薬を販売しようとするときには,一定の手続きに従って医薬品の承認審査を受ける必要があります。

(1) このような規制はなぜ必要なのでしょうか。「市場の失敗」という言葉を用いて説明しなさい。

(2) この承認審査では,どの程度の精度の検査をすべきでしょうか。副作用が発生しないことを100%確認できるまでは販売を認可しないというのではなく,それよりも低い承認基準を設定することが正当化されるとしたらその理由はどのようなものか説明しなさい。

問題12

年金型生命保険の保険金に対して,現状では相続税と所得税の二重課税になっているとして遺族が訴えた裁判において,平成22年7月6日に「所得課税は違法」とする最高裁判所の初の判断が下されました。それにより同様のケースにおいて,他の人々も払いすぎた税金を取り戻すことができることになりました。またこのような最高裁判所の判決とその論理構成は,判例として今後の裁判所の判断に大きな影響を与えることになるでしょう。

このような裁判では,自らが原告となり訴訟費用を負担しなくても,誰か他人が訴えを起こしてくれれば,その判決にただ乗りできることになります。よって社会的には提訴することが望ましい事案であっても提訴されない可能性があるのではないでしょうか。

この問題を解消・軽減するためにはどのような施策が必要であるかについて,その施策にどのような弊害があるのかにも言及する形で提案してください。

問題11

大学における教育に対しては,国立大学であるなら国から学生数等に応じて運営費交付金が支払われています。また私立大学に対しても私学助成が行われています。このような補助金が支出されていることの政策的な根拠はどのようなものでしょうか。

ここで街の人々の意見を聞いてみましょう。

  • Aさん「大学に行くことで本人の能力が向上し卒業後に得られる賃金が上昇するのであれば,奨学ローンを整備するだけで十分だと思う。」
  • Bさん「大学生といっても勉強している人とそうでない人の差は大きい。また少なくとも就職しない人や専業主婦になる人に対しては,補助金の支出は不要なはずだ。」
これらの意見を参考に,大学生の教育に税金を支出することに対する賛否を述べなさい。その際には効率性の観点からの検討を加えて理由を明記すること。

問題10

宅配便は,平成21年度の取り扱い個数で見ると,ヤマト運輸がシェア40.6%でトップであり,佐川急便がシェア36.2%で二位になっています。このような上位企業への集中がなぜ発生するのかを自然独占という用語を用いて説明しなさい。その際にはなぜ新規参入が難しいのかについても言及すること。

問題9

苗を植えてから半年後に収穫が可能になるような特定の農作物の市場を考えます。また,この財はトラック等で安価に輸送できるため,市場は全国で共通しているとします。

ここで他の地方は例年どおりの作柄であったのに対して,東北地方のみ天候不順によりこの農作物の収穫量が減ったとしましょう。このとき東北地方の農家とそれ以外の農家が得られる収入は例年と比べてそれぞれどのように変化するでしょうか。

東北地方以外の農家の収入は必ず増加すること,また東北地方の農家の収入は減る場合と増える場合があることを下の図を用いて説明しなさい。



ヒント:作図をする際に,苗を植える段階と収穫した段階を分けて考えると良いでしょう。また苗を植える段階での東北以外の農家の供給曲線と例年の総供給曲線を図に記入することが必要になります。

2010年8月27日金曜日

問題8

自動車の自動車検査登録制度(車検制度)はなぜ必要なのでしょうか。例えば自家用車を購入した場合には,まず3年後に,そしてその後は2年毎に検査を受ける必要があります。

ここで「整備不良の自動車に乗っていたら自分がケガをするだけだ。だから規制により義務付けなくても問題はない。なぜ自己責任ではダメなのか」という意見を持つ人に対して,なぜ自動車の整備に関して規制や義務付けが必要なのか理解してもらうためにはどのような説明をすれば良いでしょうか。講義で扱った市場の失敗のうちのいずれかの考え方を用いて,車検制度が必要な理由を説明しなさい。

2010年8月25日水曜日

問題7

現在,総選挙を前にして高速道路を無料化するべきかどうかについての議論が行われています。ここでは通行料金をどのように決めることが望ましいのかという問題を考えてみましょう。その際には,本質的な問題が分かりやすくなるように,以下のような簡単化した仮定の下で分析したいと思います。

まず一定の区間に注目したときに,実際には平日と休日では,また昼間と夜間とでも交通量が異なると思いますが,ここでは一日を通じて安定しているものと考えることにします。また道路の維持補修にかかる費用はゼロとします。そして,この区間が渋滞していないことを前提としたときの通行料金と利用希望者数の関係を調べたところ,下のグラフのように,0≦p≦aの範囲で,q=1−p/aという関係になっているとします。


このとき以下の問に答えなさい。

(1) 高速道路の車線数が十分に多く,希望者全員が利用したとしても混雑が発生しない場合を考えます。このとき,通行料金をいくらにすれば社会的余剰が最大になりますか。

(2) 次により現実的な問題を考えるために,一日の交通量が0.7を超えると渋滞が発生するとしましょう。そして渋滞が発生した場合には,個々の利用者の満足度が半分に低下するものとします(実際は渋滞の程度に応じて満足度が変わると思いますが,ここでは渋滞の有無だけを考えていることに注意してください)。このとき社会的余剰を最大にする通行料金はいくらでしょうか。また交通量が0.2を超えると混雑が発生するとしたら,社会的余剰を最大にする通行料金はいくらでしょうか。それぞれ答えなさい。

2010年8月23日月曜日

問題6

オーストリアのウィーンでは,201071日より,気性の荒い大型犬(13種類とその混血種が指定されている)を飼う場合には免許が必要になりました。例えば,ドーベルマンは勝手に飼うことができますが,土佐犬を飼うには免許が必要です。

免許を取得するためには受験料25ユーロを払って筆記試験と実技試験を受ける必要があります。なお免許を持たずに指定された種類の犬を飼っていた場合には,最高で14,000ユーロの罰金が課されることになっています。

(1) このように特定の種類のペットを飼う際に免許を要求する制度がなぜ必要なのかを説明しなさい。その際に「市場の失敗」という言葉を用いること。

(2) この制度では,すべての犬を免許の対象としているわけではありません。対象を選別する際に適切な基準とはどのようなものでしょうか。効率性の観点から説明しなさい。

2010年8月22日日曜日

問題5

東京都では,家庭ゴミの収集は無料ですが事業系ゴミは有料となっています。そして,企業や商店がゴミを出す際にはコンビニ等で売られているシールをゴミ袋に貼る必要があります。例えば30リットルのゴミ袋を収集してもらう際には,30リットル分のシールを購入して袋に貼ることになります。

このようなルールに対して,個人商店を経営する安藤さんから以下のような意見が寄せられたとしましょう。

「工場や商店だけでなく,普通の人々もゴミを排出している。よって個人も法人も等しく扱って欲しい。つまり法人から料金を徴収するなら一般家庭からも徴収して欲しい。家庭ゴミが無料なら事業系のゴミも無料で回収すべきである。」

このような意見に対して,現行制度は効率性の観点からどのように正当化可能なのかを考えて,意見を寄せてくれた安藤さんに説明してください。

ヒント:温室効果ガスの排出を抑制する目的での課税や排出権取引に関して,その対象を企業に限るか個人にも適用するかについて考えた場合にも同様の説明が成り立ちます。

問題4

ボトルで売られている赤ワインの需要曲線を描いてみましょう。ここでは特別な地域や生産者のものではなく,誰もが気軽に飲めるようなワインに注目し,そのようなワインが一種類しか存在しないケース(またはすべてのデイリーワインの品質の差は誤差の範囲と消費者たちに認識されているケース)を想定します。

いま多数の消費者と生産者がいて,市場は競争的であり,個々の消費者と生産者は市場で付けられている価格を見た上で赤ワインを何本買うか,また何本生産するかを決めているとします。ただし登場人物の数が多すぎると話が複雑になるので,ここではAさんとBさんという二人の消費者に注目しましょう。

ここで二人がワインに対して支払っても良いと頭の中で考えている上限の金額は,それぞれ以下のようになっているとします。


  • Aさんは,もちろん値段が高すぎれば一本も買わないこともありますが,ワインを二本までなら買ってもよいと考えています。そして,一本だけ買うなら3000円まで,また二本まとめて買うなら合計で5000円までなら支払っても良いと考えています。
  • 一方のBさんは,このワインを三本まとめて買いたいと考えています。一本や二本ならいりません。また四本以上もいりません。そして三本まとめて7500円までなら出しても良いかと思っています。もちろんそれよりも安ければよろこんで買います。

このときのAさんとBさんの需要曲線を合わせた市場需要曲線を描きなさい。