2011年1月17日月曜日

差別の経済分析

前回,差別をなくすためにはどのような施策が必要なのかという問題を議論し始めました。その際に重視したいのは,単純に差別行為を禁止すればそれで問題が解決するとは限らないため,様々な手段を組み合わせることが必要であるという視点です。また何らかの差別是正措置を採用したら事後評価を必ず行うことも重要だと考えています。

そもそも経済学における差別研究は,1950年代から始まりました。1957年にBeckerの有名な著書が出版され,嗜好に基づく差別が経済学の分析対象として初めて俎上に上ったのです。また1973年のArrowの論文などをきっかけとして統計的差別の存在にも注目が集まりました。

このように差別を嗜好に基づく差別と統計的差別とに大きく分けて扱うのは,経済学では標準的です。前回の記事では,嫌いだから差別をするとか偏見があるから差別するというものではなく,ロジックとしてより興味深い統計的差別を先に採り上げたため,このエントリは「机上の空論」であるといった評価もあったようです。しかし,嗜好に基づく差別についても追々検討していきますのでしばらくお待ちいただければと思います。

さて私は,上記の二種類のもの以外にも差別する理由があると考えて,2007年頃に"Implicit reverse discrimination in firms"というタイトルの研究を始めました。そこでは,差別主義者だと思われたくない上司が,少し能力が劣るくらいならあえてマイノリティーを昇進させる可能性があるという意味での企業内の逆差別を採り上げて分析しています。しかしこれは理論的にはMorris (2001)” Political correctness”のロジックを企業内の昇進競争に当てはめただけとしか自分でも評価できないので,残念ですが,いくつかの大学で研究報告をした後にとりあえず放置してあります。おもしろい発展のさせ方ができないかと,この問題も時々考えてはいるのですが。

このように差別問題に興味がある私としては,本業に差し支えない程度に議論を進めていきたいのですが,差別の問題は表現に気を使うためか執筆に時間がかかります。よって,10日ごとくらいにポストできるように気長に進めていきたいと考えています。

それでは。

0 件のコメント:

コメントを投稿