2011年1月23日日曜日

澤井和彦さん(ks736877)へのお返事

このエントリは澤井さんのBlog記事
(http://xxx-phere.cocolog-nifty.com/beobachtungen/2011/01/post-2382.html)
に対してのコメントです。Twitterへの連投を避けるためにこちらに書くことにしました。よってまずは澤井さんのBlog記事を先にご覧ください。


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澤井さん,

こんにちは。Blogを拝見しました。長期雇用を考える際に,他の制度との関係をもっと考慮せよとの意見には同意します。しかし細かい点ではいろいろと疑問やコメントしたいことがあります。例えば「労働者は選択できず逆に企業にいいように利用されてしまう」といった表現や中小企業における長期雇用の実態認識等には疑問を持ちました。

まずは守(ら)れないルールについてです。そのようなものは意味がないだけでなく,恣意的な摘発が可能になるため,はっきり言って害悪であると思います。この点については再度議論します。

次に「いいように利用されてしまう」という表現についてです。問題のある人や行為が,労使双方に現実に存在していることは承知していますが,ルールの範囲内での行為を糾弾するような書き方だと冷静な議論が成立しない恐れがあるため望ましくないと思います。

おそらく経済学者の発想では,何らかの好ましくない行為が実際に観察された場合に,それを引き起こした人物を糾弾するのではなく,それを防ぐように誘導できなかった制度設計の問題として捉えることが一般的だと思います。

例えば労働に関するトラブルが発生したとするなら,まずなぜそれを防げなかったのかを私なら考えます。その上で,制度設計のミスが原因なら修正を検討しますし,防ぐことのコストが大きすぎたために「あえて防がなかった」のであれば,定められた罰則を淡々と課すしかありません。

僕がよく例に使うのは自動車事故による死傷者のケースです。まず事故を起こせば相応のペナルティーが課されますね。そして速度制限等の行為規制,自動車の安全基準やガードレールの整備などを総合的に利用して政策目標を達成しようとするのが現実的です。

そしてそれでも防げない事故が発生したとき,被害者側の感情も分かりますが,加害者を過度に糾弾するのではなく再発防止のために何が出来るかを考える方が建設的だと思うのです。もちろん最適な対策は,時代の変化や技術進歩によっても変化するので定期的な見直しが必要ですね。

続いて「雇用の流動化などはすでに長期雇用の条件を満たせなくなりつつある中小企業で構造的に起こっている」との記述がありましたが,端的に言えば事実誤認かと思います。中小ではそもそも長期雇用が例外的であったと捉えるべきではないでしょうか。例えば以下のページをご覧ください。
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h17/hakusho/html/17321400.html

また私が中期雇用も許すべきだとしている点について,澤井さんは大規模な制度変更だと捉えられているようにお見受けしますが,私はそうは考えてはいません。変更後も,おそらく大企業では長期雇用が続くと思いますし,これまで実質的に長期雇用ではなかった中小企業の労働者に関しては,現状を追認するというだけではなく「守れるルールになったのだからきちんと守らせる」ことが可能となると理解しています。

また交通事故の例に戻るなら,例えば高速道路で時速100キロメートルまでという速度制限に違反したとして摘発されたときに,現状では「運悪く取り締まりに引っかかった。今度は捕まらないように注意しよう」というような認識を持つドライバーが結構多く存在しているのではないでしょうか。しかし速度制限を実態に合わせて少し緩める代わりに取り締まりを厳格化することで,皆が新しいルールを守るようになれば,結果として現在よりも事故が減るのではないかと私は考えています。

これを労働の話に適用すると,守れるルールであり,かつ本当に守らなければならないルールとすることで,労働基準監督署による取り締まりにも一層の正統性が認められるのではないでしょうか。現状では,労働者が使用者の行為に不満を持っても「他もこんなものだろうな。訴え出ても得しないだろうな」と考えてしまう可能性があるのに対して,このラインを超えたら必ずアウトという線引きを明確にすることは,とても有用なことだと思います。

最後に小倉さんとの会話についてです。そもそも「説得」とは,相手に伝わる語りかけでなくては意味がありません。まあ京極夏彦の小説に出てくる京極堂の「憑物落し」のようなものですね。例えば僕が池田信夫さんと会話した記録のtogetter (http://togetter.com/li/90352) をご覧いただければ,相手に伝わるように注意深く言葉を選んでメッセージを投げていることがご理解いただけると思います。

これに対して小倉さんとのやり取りでは,もっと彼に伝わる言葉が別にあるはずなのに,それを選ばずに次々と「いかにも経済学者的な言葉」を投げつけているという意味において,私に非があることは認識しています。これは小倉さんからのメッセージが千本ノックのように次々と飛んでくるので言葉を選んでいる暇がないというのもありますが,このような乱闘をやると多くの人が面白がって見てくれるため,労働問題への関心が高まるという効果も少しは期待していたりします。まあ投げかけられる言葉への適切な対応が出来ていないという観点からは私の処理能力不足の問題であり,「関心が高まる」などと言うのは後付けの言い訳にしか聞こえないかもしれませんね。

私としては澤井さんから頂いたコメントだけでなく小倉さんからのツイート等も含めて,自分が長い間考えてきた今後の労働ルールのあり方について,どこが分かりにくくて誤解されやすいのかを理解する,そしてもちろん考え方自体に問題があれば修正するためにとても役に立っていると思い,皆さんに感謝しています。今後ともコメントをいただけること,また建設的な議論が出来ることを楽しみにしています。

コメントを頂き,ありがとうございました。

安藤至大


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