2011年1月28日金曜日

澤井さんへの返信(その2)

丁寧なお返事をいただきありがとうございます。「経済学者vs弁護士の雇用規制緩和に関する議論に絡んでみた(その2)」を拝読して,自分の説明が足りなかったところと澤井さんが心配されている論点とが明確になり,とても感謝しています。

まず説明不足だったと思われる点は,大きく分けて次の4点です。

  1. まず私が提案している労働ルールの変更を,私は「解雇規制の緩和」であるとは考えていません。例えば既存の契約については,これまで不明確で予測が難しかった整理解雇の要件を合理化・明確化すべきだと私は主張していますが,これは中期雇用導入の有無とは関係なく,合理化・明確化が労使双方の利益になるものだと思うからです。当然,この取り組みによっても,これまでの約束を使用者側が何の制約もなく一方的に反古にすることが認められるわけではありません。
  2. また私は中期雇用を可能にすることも主張していますが,これは「原則3年までの短期か定年までの長期かという極端な二択に,契約が限定されていること」を崩すのが目的です。よって新規契約に関しても,個々の契約において解雇しないという約束がなされた範囲では,雇用保障が依然として実効性を持ちます。
  3. さらに重要だと考えている変更点は,長期雇用に関する雇用保障の構造をこれまでよりも明確なものにすることです。俗に終身雇用と呼ばれる定年までの長期雇用は,現時点では期限の定めのない雇用契約と整理解雇法理により実質的に実現されています。これに対して今後は,定年までの片務的な長期雇用保障契約を労使が結ぶ場合でも,明示的な期間を定めた契約を締結すべきだと考えています。これは例えば大学新卒の22歳の人に対して,企業が65歳の定年時までというおよそ44年契約を明示的に提示するということです。しかし,これだけ長期の契約となると環境の変化等への対応が不可欠でしょう。よっておそらく長期雇用の場合には,労働条件の変更による待遇悪化の可能性,また分社化や他社への部門譲渡の可能性,そして整理解雇が行われるとしたらどのようなときかという要件等を可能な範囲で明示する特約が付くことになると思われます。そして予測できなかった事態への対応については誠実な交渉義務を課すといった条項も含まれることになるでしょう。
  4. さて,そもそもこれまでのわが国の労働政策は,極端な言い方をすれば,高度成長期に大企業でたまたま発生して上手くいったように見えた労働慣行を,中小企業にまで強制しようとして失敗した歴史とは考えられないでしょうか。おそらく中小企業においては,実現不可能な労働ルールを守るように言われて,実際には無理だと労使が判断して無視していたというのがこれまでの実態でしょう。つまり現在まで,中小企業の労働者は実質的には保護されていない状態だったのです。そこで前回申し上げたように,守れるルールにするかわりにきちんと守らせることが重要だと考えています。

私が述べている案に対して,澤井さんが様々な心配をなさるのは当然のことです。上記のように様々な不具合もあるものの,これまでとりあえずは機能してきた制度に手を加えることにより,現状と比較して全員が損する可能性さえもあるからです。よって労働を取り巻く関係者の全員が理解し納得した上で,100%確実とは言わないまでも「まあやってみても良い」と考える合意形成が必要です。そのために必要となる取り組みは,ルール変更を提案する側に課された責務であるとも言えるでしょう。

そこで最近,私は労働法学者の野川忍さんと共同で雇用労働問題を議論するBlogを始めました。野川さんとの質疑応答を通じて,これからの労働ルールのあり方についての私の考え方と論拠を今後さらに明確にしていくつもりでいます。

それが一段落した上で,澤井さんから頂いたコメントや疑問点のどれに答えられていて,またどこは回答が不十分なのかをはっきりさせたいと思います。というわけで申し訳ありませんが,もう少し時間を頂ければありがたいです。

今後ともどうぞよろしくお願いします。

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